歌劇『イーゴリ公』第2幕でポーロヴェツ人(だったん人)の長、
コンチャークが歌うアリア。
「イーゴリ公のアリア」の後1曲おいて「ポーロヴェツ人の踊りと合唱」の直前に入る場面で、
コンチャークとイーゴリ公の対話になっています。
コンチャークはイーゴリ公とは旧知であり、イーゴリ公の武人としての心意気を大いに買っています。
このたびの戦いでも、虜囚となったイーゴリ公らの身柄を保護し、また異例の厚遇をしています。
この場面では、コンチャークはルーシ(ロシヤ)を裏切って同盟を結ぶよう、言葉を尽くしてイーゴリ公を説得します。
Кончак
Здоров ли, князь?
ズタローヴ リ、クニャーシ?
Что приуныл ты, гость мой?
シトー プリウヌィール トゥィー ゴーシチ モーイ?
Что ты так призадумался?
シトー トゥィー ターク プリザドゥーマルシャ?
Аль сети порвались?
アーリ シェーチ パルヴァーリシ?
Аль ястребы незлы,
アーリ ヤーストリェブィ ニズルィー
и с лёту птицу не взбивают?
イ シリョートゥ プチーツ ニェ ヴジビヴァーユト?
Возьми моих!
ヴァジミー マイーフ!
Князь Игорь
И сеть крепка,
イ シェーチ クリェープカ、
и ястребы надёжны,
イ ヤーストリェブィ ナヂョ−ジヌィ、
да соколу в неволе не живётся.
ダソーカル ヴニヴォーリェ ニェ ジヴョーッツァ.
Кончак
Все пленником себя ты здесь считаешь?
フショー プリェーンニカム シビャー トゥィー ジヂェーシ シシターイェシ?
Но разве ты живёшь, как пленник,
ノー ラージヴィェ トゥィー ジヴョーシ、カーク プリェーンニク、
а не гость мой?
ア ニェ ゴーシチ モーイ?
Ты ранен в битве при Каяле,
トゥィー ラーニェン ヴビートヴィェ プリカヤーリェ、
И взят с дружиной в плен;
イ ヴジャート ズドルージナイ フプリェーン;
Мне отдан на поруки,
ムニェ オードダン ナパルーキ、
а у меня ты гость.
ア ウミニャー トゥィー ゴーシチ.
Тебе почёт у нас, как хану,
チビェー パチョートゥナース、カーク ハーヌ、
всё моё к твоим услугам.
フショー マヨー クトヴァイームスルーガム.
Сын с тобой, дружина тоже,
スィーン スタボーイ、ドルジーナ トージェ、
ты как хан здесь живёшь,
トゥィー カーク ハーン ジヂェーシ ジヴョーシ、
живёшь ты так, как я.
ジヴョーシ トゥィー ターク、カーク ヤー.
Сознайся: разве пленники так живут?
サズナーイシャ:ラージヴィェ プリェーンニキ ターグ ジヴート?
Так ли?
ターク リ?
О нет, нет, друг, нет, князь,
オー ニェート、ニェート、ドルーク、ニェート、クニャーシ、
ты здесь не пренник мой,
トゥィー ジヂェーシ ニェ プリェーンニク モーイ、
ты ведь гость у меня дорогой!
トゥィー ヴィェーヂ ゴーシチ ウミニャー ダラゴーイ!
Знай, друг, верь мне,
ズナーイ、ドルーク、ヴィェーリ ムニェ、
ты, князь, мне полюбился,
トゥィー、クニャーシ、ムニェ パリュービリシャ、
За отвагу твою, да за удаль в бою.
ザトヴァーグ トヴァユー、ダー ザウーダリ ヴバユー.
Я уважаю тебя, князь,
ヤー ウヴァジャーユ チビャー、クニャーシ、
ты люб мне был всегда, знай.
トゥィー リュープ ムニェ ブィール フシグダー、ズナーイ.
Да, я не враг тебе здесь,
ダー、ヤー ニェ ヴラーク チビェー ジヂェーシ、
а хозяин я твой,
ア ハジャーイン ヤー トヴォーイ、
ты мне гость дорогой.
トゥィー ムニェ ゴーシチ ダラゴーイ.
Так поведай же мне,
ターク パヴィダーイ ジェ ムニェ、
чем же худо тебе,
チェーム ジェ フーダ チビェー、
ты скажи мне.
トゥィー スカジー ムニェ.
Хочешь? возьми коня любого,
ホーチェシ?ヴァジミー カニャー リュボーヴァ、
возьми любой шатёр,
ヴァジミー リュボーイ シャチョール、
возьми булат заветный,
ヴァジミー ブラート ザヴィェートヌィイ、
меч дедов!
ミェーチ ヂェーダフ!
Немало вражьей крови
ニマーラ ヴラジイェイ クローヴィ
мечом я этим пролил;
ミチョーム ヤー イェーチム プローリル;
не раз в боях кровавых
ニェ ラーズ ヴボーヤフ クラヴァーヴィフ
ужас смерти сеял мой булат.
ウージャス シミェールチ シェーヤル モーイ ブラート.
Да, князь, всё здесь,
ダー、クニャーシ、フショー ジヂェーシ、
всё хану здесь подвластно;
フショー ハーヌ ジヂェーシ パドヴラースナ;
я грозою для всех был давно.
ヤー グローザユ ドリェ フシェフ ブィール ダーヴナ.
Я храбр, я смел,
ヤー フラーブル、ヤー シミェール、
страха я не знаю,
ストラーハ ヤー ニェ ズナーユ、
все боятся меня,
フシェー バヤーツァ ミニャー、
всё трепещет кругом;
フショー トリピェーシシェト クルゴーム;
но ты меня не боялся,
ノー トゥィー ミニャー ニェ バヤールシャ、
пощады не просил, князь.
パシシャードゥィ ニ プラシール、クニャーシ.
Ах, не врагом бы твоим,
アーフ、ニェ ヴラゴーム ブィー トヴァイーム、
а союзником верным,
ア サユージニカム ヴィェールヌィム、
а другом надёжным,
ア ドルーガム ナヂョージヌィム、
а братом твоим
ア ブラータム トヴァイーム
мне хотелося быть,
ムニェ ハチェーラシャ ブィーチ、
ты поверь мне!
トゥィー パヴィェーリ ムニェ!
Хочешь ты пленницу
ホーチェシ トゥィー プリェーンニツ
с моря дальнего,
スモーリャ ダーリニェヴァ、
Чагу, невольницу,
チャーグ、ニヴォーリニツ、
из-за Каспия;
イズザカスピーヤ;
если хочешь,
イェーシリ ホーチェシ、
скажи только слово мне,
スカジー トーリカ スローヴァ ムニェ.
я тебе подарю!
ヤー チビェー パダリュー.
У меня есть красавицы чудные,
ウミニャー イェーシチ クラーサヴィツィ チュードヌィイェ、
косы, как змеи, на плечи спускаются,
コースィ、カーク ズミェイー、ナプリェーチ スプスカーユツァ、
очи чёрные влагой подёрнуты,
オーチ チョールヌィイェ ヴラゴーイ パヂョールヌトゥィ、
нежно и страстно глядят
ニェージナ イ ストラースナ グリヂャート
из-под тёмных бровей.
イスパトチョームヌィフ ブラヴィェーイ.
Что ж молчишь ты?
シトージ マルチーシ トゥィー?
Если хочешь,
イェーシリ ホーチェシ、
любую из них выбирай!
リュブーユ イジニフ ヴゥィビラーイ!
Гей! Пленниц привести сюда!
ゲーイ!プリェーンニツ プリヴィェシチー シュダー!
Пусть они песнями и пляской потешат нас
プーシチ アニー ピシニャーミ イ プリャースカイ パチェーシャト ナース
и думы мрачные рассеют.
イ ドゥームィ ムラーチヌィイェ ラシシェーユト.
Князь Игорь
Спасибо, хан, на добром слове,
スパシーバ、ハーン、ナドーブラム スローヴィェ、
я на тебя обиды здесь не знаю,
ヤー ナチビャー アビードゥィ ジヂェーシ ニェ ズナーユ、
и рад бы сам вам тем же отплатить.
イ ラード ブィー サーム ヴァーム チェム ジェ アトプラチーチ.
А всё ж в неволе не житьё,
ア フショージ ヴニヴォーリェ ニェ ジチヨー、
ты плен когда-то сам изведал.
トゥィー プリェーン カグダー タ サーム イジヴィェーダル.
Кончак
Неволя! Неволя! Ну хочешь,
ニヴォーリャ!ニヴォーリャ!ヌー ホーチェシ、
отпущу тебя на родину, домой?
アトプシシュー チビャー ナローヂヌ、ダモーイ?
Дай только слово мне, что на меня
ダーイ トーリカ スローヴァ ムニェ、シトー ナミニャー
меча ты не поднимешь,
ミチャー トゥィー ニェ パドニーミェシ、
и мне дороги не заступишь.
イ ムニェ ダローギ ニェ ザストゥーピシ.
Князь Игорь
Нет, не гоже князю лгать.
ニェート、ニェ ゴージェ クニャージュ ルガーチ.
Скажу тебе я прямо, без утайки:
スカジュー チビェー ヤー プリャーマ、ベズターイキ:
такого слова я не дам!
タコーヴァ スローヴァ ヤー ニェ ダーム!
Лишь только дай ты мне свободу,
リーシ トーリカ ダーイ トゥィー ムニェ スヴァボードゥ、
полки я снова соберу,
パルキー ヤー スノーヴァ サビルー、
и на тебя ударю вновь,
イ ナチビャー ウダーリュ ヴノーフィ、
тебе дорогу заступлю!
チビェー ダローグ ザストゥプリュー!
Испить шеломом Дона
イスピーチ シローマム ドーナ
снова попытаюсь!
スノーヴァ パプィターユシ!
Кончак
Люблю!
リュブリュー!
Ты смел! И правды не бойшься.
トゥィー シミェール! イ プラーヴドゥィ ニェ バイーシシャ.
Я сам таков!
ヤー サーム タコーフ!
Эх! Когда б союзниками
エーフ!カグダープ サユージニカミ
мы с тобою были:
ムィー スタボーユ ブィーリ:
заполонили бы всю Русь!
ザパラニーリ ブィー フシュー ルーシ!
Как два барса, рыскали бы вместе,
カーク ドヴァー バールサ、ルィースカリ ブィー ヴミェーシチェ、
кровью вражьей вместе упивались
クローヴィユ ヴラージイェイ ヴミェーシチェ ウピヴァーリシ
и всё бы в страхе держали под пятой:
イ フショー ブィー フストラーヒェ ヂルジャーリ パトピトーイ:
чуть что, так на кол иль голову долой!
チューチ シトー、ターク ナーカル イーリ ゴーラヴ ダローイ.
Так ли? Ха, ха, ха, ха!
ターク リ?ハ、ハ、ハ、ハ!
Да несговорчив ты! Садись!
ダー ニェズガヴォールチフ トゥィー!サヂーシ!
コンチャーク
調子はどうだ、公よ?
何をふさぎこんでいるのだ、わが客人?
何をそんなに思い悩むのだ?
網が破れたのか?
それとも鷹の意気地がなくて
空の小鳥を狩らぬのか?
私のを使うがいい!
イーゴリ公
網は頑丈だし、
鷹もしっかりしている、
だが、高空を飛ぶ隼も捕われの身では生きてはいけぬ。
コンチャーク
まだこの地での己の身を捕虜だと考えているのだな?
だが実際、君は捕虜として過ごしているか?
そうではあるまい、わが客人としてだろう?
君はカヤーラ河のほとりでの合戦で傷つき
従士団とともに捕虜となった;
私が保証人となり君の身柄を預かり、
わがもとでは君は客人だ。
ここでは君にハーンと等しい敬意が払われ、
君への厚意として、わが物すべてが役立てられているのだ。
君の子息も、従士団も君と共におり、
君はここでハーンさながらに過ごし、
私と同じ暮らしを送っているのだ。
考えてみろ、捕虜がこんな暮らしをするか?
どうだ?
いいや、違う、違うぞ、友よ、違うぞ、公よ、
君はこの地ではわが捕虜などではなく、
私の大切な客人ではないか!
どうだ、友よ、私を信用しろ、
公よ、私は気に入ったのだ、
君の豪気、そして戦での豪胆ぶりが。
君を尊敬しているのだ、公よ、
君はいつでも私の贔屓だったのだ。
そうだ、私はここでは敵ではなく、
客をもてなす主であり、
君は大切な客人だ。
だから私に知らせてくれ、
何が不機嫌のもとなのか
私に言ってくれ。
望みとあらば、どれでも馬をとるがいい、
どれでも天幕をとるがいい、
秘蔵の剣、
父祖の刀もとるがいい!
敵の血をあまた
この刀で流したものだ:
一度ならず血みどろの戦で
死の恐怖を我が剣は広めたものだ。
そうだ、公よ、全てのものがここにあり、
ここにある全てのものがハーンのものだ;
久しく私は皆の恐怖の的だった。
私は勇猛にして大胆不敵、
恐怖というものを知らず、
皆の者が私を恐れ、
常にまわりでおののいている;
ただ君独りが私を恐れず、
慈悲を乞わなかったのだ、公よ。
ああ、君の敵ではなかったら、
信頼に足る盟友にして、
気のおけない親友、
あるいは君の兄弟になりたかった、
本当だとも!
海のかなたから連れて来た捕虜の女たち、
カスピ海のかなたから捕らえて来た奴隷の女たちはいかがかな?
所望とあらば
一言だけ言ってくれ、
君に進ぜよう!
私の許には絶世の美女が揃っているぞ:
蛇のような編んだ髪を肩に垂らし、
黒ずんだ眉の下から優しげに情熱的に
潤んだ黒い瞳がのぞいている。
何故黙っているのだ?
所望とあらば、誰でも選べ!
おい!捕虜の女どもをここに連れて来い!
歌と踊りでわれらを楽しませ、
鬱憤を晴らさせよ。
イーゴリ公
ハーンよ、厚意に満ちた言葉にいたみいる、
この地で君を恨みに思ったことはなく、
私自身、君に返礼したいところだ。
とは言え所詮、とらわれの身はまともな暮らしとは言えぬ。
君とてとらわれの身の上は、かつてその身をもって知ったろう。
コンチャーク
とらわれの身!とらわれの身!なるほど、望みとあらば、
故国へ帰してやるぞ?
私に剣を振り上げぬと、
私の行く手を塞がぬと、それだけ誓え。
イーゴリ公
いいや、公たる者、うそをつくわけにはいかぬ。
君にはつつみ隠さず、率直に言うが、
そのような誓いはせぬ!
自由の身になり次第、
私は再び兵を集め、
今一度君を攻め、
君の行く手を遮ろうぞ!
兜に汲んだドン河の水を
再び飲み干そうぞ!
コンチャーク
気に入った!
君は大胆で、真実を恐れない。
私もそうだ!
ええい!我ら二人盟友となっていたら、
ルーシ全土を征服したろうに!
二頭の豹さながらに、共に駆けめぐり、
敵の血に共に酔い痴れ、
そして全てを恐怖のうちにひれ伏せさせただろうに。
些細な事でも、串刺しか、打ち首だ!
どうだ?ハ、ハ、ハ、ハ!
全く頑固な奴だ!まあ座れ!
「ハーン・コンチャーク」
ハーンはポーロヴェツ人の長、指導者の称号で、チンギス・ハーンのハーン、成吉汗(ジンギス・カン)の汗と同じです。
コンチャークはイーゴリと同時代のポーロヴェツ人の有力なハーンの一人で、1180年には、イーゴリ公らと同盟を結び、時のキエフ大公と争いました。
ロシア語は日本語では使わない音がたくさんある言葉です。
正確にロシア語を日本語のカナで表現することはできませんが、なるべくロシア語に近い表記を試みてみました。
「こういう風に聴こえないこともない」程度の近さだと思ってください。
なお、ロシア語の単語の区切りと、ここで挙げたカタカナの区切りとは一致しません。
下線がついているカタカナは母音の部分で、基本的には、母音一つと音符一つが対応します。
下線がついていないカタカナは子音や二重母音の一部、半母音なので、聴く場合には、いっそのこと無視してしまっても構いません。
これから演奏会などでロシア語でこの歌を歌う皆さんには、一度、ロシア語の発音を習うことをお勧めします。
このサイトでは、ボロディンの作詞による歌劇『イーゴリ公』の歌詞(ロシア語)の一部、
及び、『イーゴリ公』のソフトのジャケット類と関連する書籍の表紙の画像、
そしてビリービンによる『イーゴリ公』関連のイラストレーションの画像を掲載しています。
以上のロシア語歌詞、画像の掲載に何らかの著作権上の問題がありましたら、ただちに掲載を取りやめます。
また、掲載している『イーゴリ公』の日本語訳は管理人Vindobonaによるものです。(2006/03/15)